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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2313号 判決

被控訴人らは、当審において、本訴請求のうち、第三物件の製造等の禁止を求める部分およびその廃棄を求める部分につき適法な訴の一部取り下げをしたので、原判決中の右に対応する部分は当然に失効したわけである。

よつて、被控訴会社に対し、損害の賠償を求める部分について判断する。

一、被控訴人安藤が、登録第四〇六、〇七九号「カード容器における書類袋」の実用新案権を有し、右実用新案は、昭和二十六年四月九日登録出願、昭和二十八年六月十八日出願公告、昭和二十八年九月二十一日登録されたものであることおよび被控訴会社が昭和十八年五月十三日設立され、昭和二十一年四月以降は事務用機器の製造販売を主たる営業目的としてきた株式会社であり、被控訴人安藤が被控訴会社設立以来現在までその取締役であることは当事者間に争いがなく、この事実に原審証人伊藤一男の証言(後記措信しない部分を除く。)および当審証人石田正一の証言を総合すれば、被控訴人安藤は、被控訴会社設立以来百数十件にのぼる自己の発明、考案にかかる特許権、実用新案権につき、被控訴会社に対し独占的にその実施を許諾してきたものであり、本件実用新案についても、その登録と同時に被控訴会社との契約により期間の定めなく、範囲は全部、対価は無償とする独占的な実施を許認したものであることが認められる。前記伊藤証人の証言中「実施料は全部会社から支払つている」との供述部分は前記石田証人の証言に対比してたやすく採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

控訴人は、右契約は取締役会の承認を欠く無効のものであると主張するけれども、右実施権の設定契約は対価を無償とするものであること叙上認定のとおりであり、これによつて会社に損害を及ぼすおそれのないものであるから、商法第二百六十五条にいう取締役会の承認を受けるべき取引に当らないものと解すべく、控訴人の右主張は理由がない。

以上の事実によれば、被控訴会社は、現行実用新案法(昭和三十四年法律第二十三号、以下新法という。)施行前の実用新案法(大正十年法律第九十七号)第二十六条において準用する特許法(大正十年法律第九十六号)第四十八条第一項の規定に基づき許諾による実施権を有していたもので、右実施権は新法施行後は、実用新案法施行法(昭和三十四年法律第百二十四号)第十四条第一項の規定により新法第十九条第一項の規定による通常実施権となつたものである。

次にその成立に争いのない甲第七号証および原審証人伊藤一男の証言によれば、被控訴人安藤は、新法施行後である昭和三十六年九月十九日、被控訴会社との間に、本件実用新案権につき、期間の定めなく、範囲は全部、対価は無償とする専用実施権の設定契約を結び、昭和三十七年二月十二日その登録を経たことが認められ、これに反する証拠はない。

以上認定の事実によれば、被控訴会社が、本件実用新案権につき、その登録の日以降専用実施権を有することは明らかである。

二、本件実用新案の説明書の「登録請求の範囲」の項に「袋用紙の一半片2には横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設けると共に他半片1には、適宜の表示カード差込孔4・4又は4´・4´を設けて両半片2・1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなるカード容器における書類袋において、上記挿入口を傾斜せる開口5に形成してなる構造」と記載されていることは、当事者間に争いがなく、右「登録請求の範囲」の項の記載とその成立に争いのない甲第一、第二号証の各二、乙第九号証を総合すれば、本件実用新案は、被控訴人安藤の有する登録第三九七七五二号実用新案の権利を使用して実施するものであつて、その要旨は、

(一) カード容器における書類袋において

(1) 袋用紙の一半片自体に文書等を横方向から挿入しうるように挿入口が設けられていること

(2) 右挿入口は傾斜した開口に形成されていること

(3) 袋用紙の他半片には適宜の表示カード差込孔が設けられていること

(4) 右両片が重ね合わされ、周囲の各辺がそれぞれ適宜の方法で接着されていること

の各要素の結合にあり、その作用効果は、右の構造により、

(A) 文書等の挿入に当つて、その左下隅を斜め上方より開口内に突き入れた後、奥へ入れられるので挿入がきわめて容易であること

(B) 挿入した文書等の右上隅部が傾斜した開口から露出して見えるので、文書等の索出がきわめて容易であること

(C) 挿入口に挿入された文書等と表示カード差込孔に差し込まれた表示カードとの関連性をもたせることにより、その索引記入容易であること

にあるものと認められる。

被控訴人らは、文書等の挿入口が、一半片自体に設けられることは、本件実用新案の構造上の要素をなすものではないと主張する。しかしながら、前記「登録請求の範囲」の項の「図面に示すように袋用紙の一半片2には横方向より挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設けると共に他半片1には適宜の表示カード差込孔4・4又は4´・4´を設けて両半片2・1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなる………書類袋において………」との記載、本件実用新案公報(甲第一号証の二)の「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項の記載、特に「5は伝票、文書等を横方向から挿入するため裏半片2に設けた挿入口の傾斜せる開口」との記載、「考案相互の関係」の項の「本考案は………袋用紙の一半片2には横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設ける」との記載に同公報の図面を参しやくして考えると、本件実用新案の書類袋の挿入口は袋用紙の一半片自体に設けられる開口と解するのが自然であつて、たとえ同公報中に文書等の挿入口の設置場所、開口の構造を限定する記載がなく、また傾斜した開口に形成された右挿入口が前記(一)の(A)(B)の作用効果を奏するための構造であり、かつ、「横方向より挿入し得る」が必しも縦方向から挿入しえない趣旨とは解されないからといつて、これらのことから直ちに本件実用新案における文書等の挿入口をもつて上下(もしくは表裏)の各半片の周辺によつて両半片間に形成される間隙ないし開口をも含むものとは解し難く、その他公報中の「開口」と「孔」との用語上の差異もまた被控訴人らの主張の十分な根拠とはなし得ないから、被控訴人らの前記主張は採用することができない。

さらに被控訴人らは前記(一)の(4)の点につき、「登録請求の範囲」その他の項における「両半片2・1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなる」との記載の「適宜」とは接着の場所において適宜の趣旨であつて周囲各辺の接着を必要としないと主張するが、公報中の、「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項には「6は裏半片2に切込んだ舌片7を形成する切込線で、8は表半片1に切込んだ切込線で、切込線8に舌片7を嵌挿することによつて両半片1・2の一辺を接着することができる………」、と接着の方法について特定の構造を記載し、これに次いで「9は両半片1・2の周辺を接着した綴着金具で、糊着してもよい」のように、具体的に各種の接着の方法を挙げ、しかもこれらについて「………することができる。」「………してもよい。」との記載があることおよび上記のとおり本件実用新案における文書等の挿入口が一半片自体に設けられたものであつて、書類袋がこの半片と他の一半片とを重ね合わせ両半片を接着して形成されるものであることを考え合わせれば「適宜接着」とは、重ね合わされた両半片を、四周の各辺において、必ずしも前記具体的に記載された方法に限らず、適宜の方法で接着する趣旨に解するのが相当であつて、この点に関する被控訴人らの主張も理由がない。

三、第三物件が原判決添付の別紙第三目録記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右第三物件の構造に前記乙第九号証および当審における証人荒井三郎の証言を総合すると、第三物件の構造は

(一) カード容器における書類袋において

(1) 袋用紙の一半片(カード台紙)の隅角部には、それぞれ数個のカード係止孔が穿設されていること

(2) 袋用紙の他の半片(裏カード台紙)は右隅角部を斜めに切除した五角形をしていること

(3) 両半片を重ね合わせ、上縁と斜縁を残して下辺と両側辺の三辺を綴着金具で接着し、斜縁と両半片の上縁をもつて文書等の挿入口を形成していること

からなるものであつて、右の構造によつて、本件実用新案の前記二の(一)の(B)(C)と同一の作用効果を奏するとともに、文書等の縦方向からの挿入が容易であり、また大形の文書や薄手の用紙の挿入、取り出しに便である反面挿入書類の上方への逸出がありうることが認められる。

四、そこで、右の認定に基づいて、本件実用新案と第三物件とを比較考察するに両者はともにカード容器における書類袋であるが、後者は上記のように袋用紙の一半片と右隅角部を斜めに切除した五角形の他半片とを重ね合わせ、下辺および両側辺を接着して、五角形の半片の斜辺と両半片の上辺とをもつて文書等の挿入口を形成したものであつて、明らかに前者の、二の(一)の(1)の袋用紙の一半片自体に傾斜した開口に形成された文書等の挿入口を設けること、及び二の(一)の(4)のこの半片に他半片を重ね合わせて周囲の各辺を接着することの構造上の要件を欠くものであり、その作用効果においても相違のあること明らかであるから、第三物件は、本件実用新案の権利範囲に属しないものというほかはない。この認定に反する原審における鑑定人加藤正信の鑑定の結果は、本件実用新案の要旨、作用効果、第三物件の構造および作用効果の認定に供した前記各証拠に照らし、当裁判所の採用し難いところであつて、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば、控訴人の製品が本件実用新案の権利範囲に属することを前提として、その侵害による損害賠償を求める被控訴会社の本訴請求は、爾余の点を判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。

よつて、以上と結論を異にし、被控訴会社の請求を認容した原判決は失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条によりこれを取り消し、被控訴会社の請求を棄却する。

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